※そんなに激しいことはしていませんが趣向が偏ってます。見る人によっては普通かもしれませんが苦手な人もいるかと思います。



『雪遊び』(兼続×三成)




今朝方から降りはじめた春の雪は夜更けになっても止まず、伏見城下を静かに白く包んでいる。


気だるい空気で満たされたいつもの部屋には、夜半に終わった酒盛りの名残と炭の温もりが漂っていた。障子一つ隔てた向こうは凍るように寒い夜だったが、布団の中は互いの体温でほんのりと暖かい。

「次はいつ、こっちに来られるんだ」

「作業が一段落したら報告には来るが……だいぶ先になりそうだな」

すまないとつぶやく腕の中の三成に、気にするなと兼続が言うのはこれで何度目になるだろう。


今回の上洛で兼続は、代官として佐渡の金銀山生産向上とその豊臣納入取り仕切りを命じられた。目的は一昨年休戦した大陸出兵を続けるための軍資金調達である。明日正式に上からの印状を受け取ったら、すぐ越後に戻って各方面に手配を取らなければならない。年の明ける前から準備をしていたおかげで大方の目処はついているものの、兼続にとって気乗りしない目的の任務を秀吉から押し付けられたことは確かだ。

再出兵に反対をしている三成は無益な戦であることを何度か秀吉に訴えていたが聞き入れられず、結局兼続の佐渡行きも止めることはできなかった。



「佐渡、か」

上の空でつぶやいたあと、ふと、何を思いついたのか兼続が身を起こした。

三成から離した体を向こうへ延ばして引き寄せたのは絹の布織物。濃鶯のその布は、今日の手土産に彼が持って来た小さな酒樽が包まれていたものだ。なめらかな布を手にちらりと三成を見る。

三成がその仕草に首を傾げたのと兼続がそれで相手の視界を覆ったのはほとんど同時だった。咄嗟に布を剥ごうと顔にかけた三成の手を先回りして掴み、そのまま手首を頭上で十字にすると浴衣の帯で自由を奪う。

一瞬の出来事を把握しかけた三成に、兼続はやはり嫌かと囁いた。

嫌だと言われたらすぐにでも外すつもりだったが、揶揄を含めた物言いが思惑通り生来の負けず嫌いを覚ましてしまったらしい。

「……別に」

強がりを含んだそっけない言葉に笑いを堪えながら、兼続は布越しの瞼へ優しく口づけた。


雪はまだ止まず、辺りには独特の静寂が流れている。

三成をそのままにして浴衣を羽織り簡単に帯を締めて部屋をあとにする。外に面した廊下は松明が燃え続けているのが不思議なくらい冷え込んでいた。踏み入れた足がそばから凍ってしまうように、冷たい。

濃い白い息を吐いて手を温めてから、兼続は重い雨戸をわずかに開けた。そのまま屈んで手を伸ばし、縁側の傍に生えている庭木まで吹き込み積もった雪を手ですくって硬く握り、平の凹みにすっぽり収まるほどの塊を作る。最初にできた一つを口に含むと刺すような冷たさと土草の香りが口中に広がった。


わずかに外の匂いを身に纏ったまま三成の傍に戻る。添い寝をして近づけた顔の気配を察した三成がうっすら唇を開いた。その小さく覗く舌先に、兼続は先程の雪の塊を静かに乗せる。

「何だ……?」

視界を覆う布の端から、寄せた眉根が見える。

「さあな」

短い答えに鼻をならすも軽く押し付けられたそれから顔を背けず、舌を伸ばして滴る何かを啜った。しばらくして答えが分かったのか大胆になった動きは、雪融け水が咽を鳴らし口の端から敷布を濡らし始めても止まない。

やがて雪を飲み尽くした先に兼続の指を見つけた三成は、唇をなぞって口中に蠢き入る冷たいそれを濡れた唇と舌で追いかけて吸った。まるでそれが欲しいがために雪を受け入れていたかというように、音を立てながら指に絡みつき動きさえ封じようとする。兼続の指もまた動きを止められまいと、口中を弄びながら三成の舌と戯れる。

しばらく、舌と指と雪の名残りが絡みあう水音だけが静かな部屋に響いていた。


「……んぅ」

胸を吸った兼続の唇に、指を舐めることに夢中になっていた三成の体が大きく弓なりにそった。つい先程まで雪を含んでいた舌先で胸の突起を転がすと、手と口が自由にならないせいでうまく刺激が逃せないらしく咽の奥で喘ぎながら面白いように反応する。

口を指から解放し、仰け反る白い首筋からその下へ下へと、舌先だけで兼続は三成の全身をゆっくりと巡り始める。身をよじって荒く小刻みに息をつく三成を手も唇も使わず焦らし追いつめてから濡らした指をその奥に這わせると、初めて聞く高い声を上げてまた大きく身をくねらせた。

理性に手をかけることもできずに乱れる体の、しどけなく開いた口に唇を寄せる。口中に入り込んでくる三成の舌はいつにも増して熱く強引で、思いのままに遊ばせてから兼続が絡めとって強く吸うとたったそれだけで息を上げ声を詰まらせた。やがて兼続は視界と手の自由を奪われたまま快楽に身を投じ始めた三成を内からも支配しようと試みる。


常であればここですがりついてくる腕がないのは寂しいけれど、いつもより数段甘い声で肌をすり寄せる三成に兼続は、つい濃い朱痕を幾つもつけてしまう。普段であれば目立つからよせと言われるところだが、今日はそれにすら気が付いていない。

「三成、」

耳と口づけを交わし、背中を撫でながら上がる息のまま兼続はその名を呼んで限界へと誘う。

「……どうする?」

項を捕えた歯に揺れた首は、その言葉への抗いなのか単なる喘ぎなのかはわからない。先に負けまいと汗ばむ体を強く抱き締めた兼続の腕に、三成は切れるような声を上げた。



濃鶯の覆いが、ぱさりと白い敷布の上に落ちる。

濡れた睫毛を眩しさにしばたかせてようやく戻した視界には、口の端に穏やかな笑みを浮かべて片手を頬杖に自分を見下ろす兼続がいた。

「今度は足も縛るか」

「……うるさい」

乱れた髪を整えようとする手を自由になった手で払う。弱みを握られた居心地の悪さに兼続をひと睨みすると、三成はぷいと背を向けた。


そんな姿に目を細め、兼続は腕を延ばして三成の体を引き寄せる。

拗ねてこちらを向かない耳に、愛しているよと囁きながら。



2006.5.19



―――

お読みくださりありがとうございました。

とりあえず謝ります。すみません。

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