※ちょっとでも兼続受がだめな方と、二股なんて言語道断な方は閲覧注意。




『相思相』(兼続×三成、景勝、左近)





その年の秋の終わりは例年より冷え込みが早く、吹きすさぶ風が寒さ厳しい越後の冬の到来を告げていた。

冷たい風に木立がざわめく音を、兼続は景勝の胸の上で聞いている。今年は雪が早そうだから早々に冬支度をする必要があるなと思いながら。


明日、兼続は景勝とともに幾度目かの新発田討伐に向かう。長きにわたるこの抗争も今年に入ってからは天下に王手をかけた豊臣から援護された手前もあり、今度こそ決着をつけたいという意気込みが上杉にはあった。加えて今朝、京都の石田三成から兼続へ、激励として鉄砲が三丁届いた。個人的な意思によるものか秀吉の口添えがあったのかは分からないが、ここまでの支援を受けては直江兼続個人としても情けない戦はできない。


日暮れ前から炭を入れていたことが功を奏して、景勝の部屋は外の寒さとはうらはらに心地良い暖さが漂っていた。それでも景勝は何も纏わぬ兼続を気遣って、時折その腕をさすり肩を手のひらで包んでくれる。

すでに小姓の身分ではない兼続は、普段景勝と床を共にすることはない。そもそも小姓だった頃もあまりそのような相手として接せられることはなかった。けれど戦の前の伽だけは、必ず兼続が務めている。

景勝が元服を迎えた頃から、ずっと。


体を反転させて自分が下になったとき、ふと、兼続の脳裏に三成がよぎった。

もしかしたら彼も、この角度で誰かを見上げているのだろうか。

秀吉が他の将と別格の扱いで三成をかわいがっていることは端から見ても一目瞭然だった。彼も小姓上がりだと言っていたが、自分のように主家の中である程度の地位を築いた今でも秀吉に抱かれることはあるのだろうか。

同時に、三成が数年前自身の半分という高碌で迎えた軍師の顔も思い浮かぶ。

大和にその人ありと言われた、島左近。軍の策を預かる身でその名を知らぬ人間はこの戦国の世にいない。

戦場で一度、伏見の石田邸で一度顔を合わせたことがあるが、自分との器の差にいつも兼続は圧倒されてしまう。二人の絶大な信頼関係は秀吉をも唸らせるほどだと聞いているし、実際三成が左近の話をするときにもそれが端々に現れていたことを思い出す。

今、三成を抱く腕は彼のものなのかもしれない。

家臣が君主を抱いて忠誠を誓うことも別に珍しいことではないし。


柔らかく塞がれた唇に、はっとして兼続は瞼を上げる。

「ずいぶんと上の空だ」

穏やかな眼差しで、景勝がこちらを見ていた。

「……申し訳ありません」

心底悪そうにして目を伏せる兼続に、謝ることではないよと景勝は静かに言う。

「だが珍しいな、兼続にしては」

言われて、景勝の相手をしているのに別の人間のことを考えてしまったのは初めてだということに気が付かされる。

「好いた相手でもできたのか」

怒るでもなく問いつめるでもない景勝の言葉に、兼続はしばらく無言になる。

それは図星を言われたからではなく「好いた相手」という言葉にぴんと来ないからだった。


確かに三成のことが気にならないと言えば嘘になるが、改めて問われると自分でも首を傾げてしまう。

だいたい、杯を交わしたとはいえまだ片手で数えられるほどしか会っていない相手をこんなにも思慕することなどあり得るのだろうか。もちろん書状のやり取りは頻繁だがそれは上杉と豊臣を結ぶものであり、自分と三成を結ぶものではない。時折目にとまる自分への言葉に思わず顔を緩めてしまうことは否定しないけれど、それを相手を恋しいと思っている証拠としてよいものか見当もつかない。


難しい顔をして考え込む兼続に、景勝は優しい溜息をついた。

「お前は頭で考えすぎる」

くしゃりと柔らかく、景勝は生真面目な軍師の前髪を乱す。

そのまま髪を梳いて頭を撫で、普段見せぬ君主の仕草に驚く額へそっと口づける。

「もっと心で感じなさい」

「……はい」

体を包む腕の暖かさを感じながら、兼続は目を閉じた。


---


「上の空ですか、殿」

膝の上の自分を見やる左近の言葉に我に返った三成は、少しばつが悪そうに短くすまない、と詫びた。

謝らなくてもいいですよと言う左近の唇を塞ぎ、そうはいかぬとばかりに強く吸う。

しばらくそのまま互いを求めていたが、また意識を飛ばしたかと思うと三成は、心配そうな声で左近に問う、鉄砲は無事越後に届いただろうかと。

「おそらくは。一番優秀な早馬に頼みましたから出立には間に合ったと思いますよ」

「そうか」

左近の言葉に安堵の声を漏らし、普段見せない微笑みを目と口元に覗かせる。その様を見て三成が誰のことで上の空だったかに気が付いたが、左近は何も言わなかった。

何も言わずに、三成の唇を吸う。

何もなかったように、三成もそれに応える。


そのうち、普段と変わらぬ二人の息遣いが、重なり合う影と共に部屋の薄闇に溶けていった。



相思相、相思相

まだそこに愛はなく

互いを想う秋の夜



2006.4.23


―――

出会ったばかりの頃なので、まだプラトニックな兼続三成。

無双の左近は隙のない格好良さなので、書くのにとても緊張します。

景勝のイメージは、まだぼんやりですがモブ若武者と浅井長政を足して2で割った感じです。

兼続は謙信の小姓説と景勝の近衆→小姓説があるようですが、後者を選択しました。

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