『Fake』(須田、黒木(桜井×黒木))
須田三郎と黒木和也が昨日通報のあった窃盗事件の聞き込み応援から戻ってきたとき、22時を過ぎた東京湾臨海署刑事課強行犯の刑事部屋にはすでに誰も居なかった。刑事は基本年がら年中大忙しだが、比較的緊急の案件が少なかった日であれば、さして珍しくない状況である。
「あらかたまとめたら残りは明日にして、俺たちも早めに帰ろうか」
休めるうちに休んでおかないとね、須田の言葉にわかりましたと答えた黒木は、てきぱきと机上のパソコンを立ち上げ、すでに記録の姿勢に入ろうとしている。
相変わらずだなあと、須田が生真面目な後輩の手元を何気なく見たとき、机の上に置かれた小さな包みが目に入った。光沢のある黒い紙で包装されたその包みには、ハート形をした金のシールが貼られている。今日はバレンタインデー当日ではないが、2月という季節柄とラッピングから察するに、中身はチョコレートであろう。
誰からだろうと内心で呟いた須田の気配が伝わったのか、黒木は机の上の贈り物にいったん目をやってから須田のほうを見ると、いつもどおりの様子で「桜井から貰ったんです」と言った。
「桜井?」
意外ではないが意外な名前に須田が驚いた顔をすると、黒木は正反対の冷静な口調で、はい、と返事をした。
「ムラチョウと行った居酒屋のサービスで貰ったそうです。ムラチョウが要らないと言うので2つになったから、と言っていました」
「そうなんだ」
てっきり告白でもされたのかと思ったよ、須田が茶化すと黒木は珍しく笑いながら、違いますよと須田の言葉を軽快に否定した。
そうなんだ。
黒木にわからないようそっと口元を緩め、須田はもう一度その包みを見る。
先週、村雨と桜井が居酒屋のサービスでチョコレートを貰ったことも村雨が桜井に自分の分を寄越したことも、須田は知っていた。
加えて、貰ったチョコレートの包みは2つとも、赤い袋に白のビニタイという巾着タイプのラッピングだったことも。
この場合お返しは必要でしょうかと呟く黒木に、そうだねえと考えるふりをしながら須田は、自分のパソコンを立ち上げつつ答えを返す。
「桜井に聞いたらわかると思うよ」
2016.2.14
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お読みくださりありがとうございました。
バレンタイン滑り込みです。