『助言』(東京湾臨海署安積班 桜井×黒木、大橋)




馴染みの居酒屋で待つ黒木の傍ら、畳まれたジャケットの上に、細いリボンが結ばれた巾着タイプの小さな包みがちょこんと乗っかっていた。

「どうしたんですか、それ」

やや不似合いな可愛らしさに職場から駆けつけた大橋が上着を脱ぎながら訊ねる。

「本屋で貰ったんだ」

曰く、ここに来る途中立ち寄った本屋で、規定の値段以上のものを購入すると粗品を渡すという期間限定のサービスをしていたという。中身はキャンディですと言われたそうだ。

「ああ、今月末はハロウィンですからね」

居酒屋のメニューにあしらわれたオレンジ色のカボチャや黒帽子をかぶったお化けを見てなるほどと呟いた大橋だったが、ふと思い出したように顔を上げた。

「そういえば今日、お台場で大きめのハロウィンイベントやってますよね? 黒木さんとこは地域課を筆頭に結構大忙しなんじゃないんですか?」

「うん、うちからも桜井が仮装して警備の手伝いに駆り出されてるよ」

「仮装して? 何でまた」

驚く大橋に黒木は、せっかくだから一緒に楽しみませんかという開催者からの申し出を、警察のイメージ向上になると判断した署の上層部が飲んだからだと説明した。さらに、桜井だけでなく警備にあたる警察官は全員仮装していること、警備の応援は各係一人の割り当てだが、どの課もどうせやるならとかなり気合いを入れており、かなり凝った仮装に仕上がっていることなどを、愉快そうな内容の割には淡々と付け加えた。

「で、警備終わったあとに桜井が仮装のまま部屋まで来ることになってて」

お菓子くださいって言われてるよ、先ほどとは打って変わった柔らかい表情で黒木は貰い物の包みをちらと見た。

「いいですね、賑やかだし、楽しそうじゃないですか」

そんなかつての職場と黒木の様子を素直に評した大橋は、少しだけ考える間を空けてこう言った。

「でも、お菓子の用意はいらないと思いますよ」

黒木の問いかけ目線を、いたずらっぽい口調で返す。

「むしろないほうが喜ぶ気がしますけど」

「そんなわけないだろう」

言葉の真意に気がついていったんは半ば呆れたような溜息をつくも、考えてはおくと律儀に返してくれた黒木に、大橋はまたからかい含みの和やかな笑顔を見せた。



2014.11.1

# 2014.11.2 修正


お読みくださりありがとうございました。

滑り込みアウトのハロウィンネタでした。

inserted by FC2 system