『残り香』(左近×兼続)




屋敷に戻って羽織を脱ぎ落としたときに、それはふわりと鼻をくすぐった。

その場に彼がいるはずなどないのに、無意識に目が辺りを見回してしまう。


仄かに香る、強い酒と香の入り交じった彼の人の匂いは、

昨晩の行灯の仄明かりへと、細くわずかに繋がっている。


小さく、兼続は息をついた。


糸の奥に染み込むまで長居をするのはやめようと、いつも思っているのに、

招かれるたび、羽織に彼の気配を残したまま屋敷に戻って来る自分がいる。


そうして、羽織をかけてなんとはなしに眺めながら想う。

彼の羽織も、今頃自分の匂いを纏っているのだろうかと。




2006.2.20



----


2008.2.29に旧サイトの裏から再掲したので、2012.2.29に新サイトへ移行してきました。一行の字数を合わせてあります。

inserted by FC2 system