『小春日』(兼続×三成)




つい昨日までの寒さが和らいだ、極月の伏見。

石田邸の庭には、この時期のために秋咲きの花が植えられている。可憐な白花には春夏花のような華やかさはないが、選ばれた品種の質が主の気遣いをよく表していた。


仄かに漂うその香と開け放たれた戸襖から注ぐ暖かい陽は、いるはずのない鳥の囀りをも錯覚させる。

「重たくないか」

幻想の春に身を委ねたまま、兼続は枕の主に問いかけた。

「いや」

短い返答に薄く瞼を開けた先には、傍らに置いた見台に視線を落とす三成が見える。


兼続が、与板から長旅を経て伏見に到着したのは陽が天頂にさしかかる少し前。単身の気安さから休息もそこそこにまず三成の屋敷を訪問したところ、着いた途端に苦言を呈された。曰く、一目で分かるほどひどく疲れた顔をしているそうだ。

自分の生真面目さを棚上げして働きすぎだと呆れる様に、ならば三成の膝枕でひと息つくかと言ったのは単なる戯れのつもりだった。が、ちょうど書簡を読もうとしていたのにと文句をもらしつつも、まさか本当に承知してくれるとはさすがの兼続も予想だにしなかった。


彼自身も連日の公務でくたびれているだろうに申し訳ないと思う反面、愛しい人の膝に頭を預けてうたた寝るのは何ともいえず心地好い。それと同時に離れていた時間と距離が思い出されて、微睡みが誘いをかけているのに瞼を閉じるのが惜しくなる。

「何だ」

眼差しに気が付き、こちらを見下ろして不思議そうに寄せられた眉に、言う。

「どこから見ても綺麗だな、三成は」

咄嗟に言葉を返せず朱がさす頬へ微笑むと、すかさず口を尖らせて、恥ずかしい奴めと呟く姿も可愛らしい。


片の手を延ばし兼続は、斜を向いた三成の、柔らかい癖髪を撫でその顔を優しく引き寄せた。

重なり合わせた唇は、軽い触れ合いを経てからしばらくどちらともなく徐々に深みを増していく。

「三成」

離れてもひと息と置かず見つめ合い、兼続がその名を呼んだ、直後。

突然、三成の手に開きかけた言葉を塞がれた。


驚く間もなく落ちてきたのはぎりぎりまで耳に近付き最小限の音量で、そっと囁かれた愛の言葉。


二の句どころか一の句すら告げない兼続に、三成が鼻をならす。

「たまには俺にも言わせろ」

そうして奇襲の成功に満足したらしく、珍しく目元に笑みを見せた。


天から注ぐ光は明るく、宵の気配が訪れるのはまだまだ先だ。

真冬の最中の快晴の小春日真昼中の縁側で。こんなにも、陽の高さを憎らしく感じたことはないなとしみじみ思う兼続だった。



2009.5.30

# 2012.1.22 若干編集



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なんかこういちゃいちゃしていて気恥ずかしいことこのうえない二人を書くのが好きです。

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