『祝い酒』(景勝と兼続)
濃紺の空に煌々と冴え渡る月を見ている。
「兼続」
月のほうを向いたまま、景勝がその名を呼んだ。
「……すまぬな」
注がれた杯に手をつけず、兼続は黙って下を向いている。
大坂で行われた戦い、後世にいう大坂夏の陣は、上杉家が属している徳川勢の圧勝であった。秀吉の子秀頼は母である淀君と共に大坂城で自害、豊臣家は歴史からその姿を消した。そして、最後まで徳川に抵抗していた幸村も、徳川本陣で無念の討ち死を遂げた……。
「私のことを、お前は恨んでいるだろうな」
力なく景勝は言った。
「下げたくない頭を、友の仇に下げさせて」
黙ったままの兼続を見る。
「また一人、お前から大事な友を奪ってしまった」
兼続は首を振る。そして静かに口を開いた。
「詮無きことです、何もかも。景勝様のせいではありませぬ。それに今宵は勝ち戦、祝いの酒ですよ」
促され、景勝は手つかずの杯を空ける。質の良いものなのであろうか香りの甘いこの酒は、徳川からすべての大名の陣に振る舞われたものだった。
「ですが、もし、お許しいただけるのであれば」
酒器を傍らに置き、兼続は月を見上げた。
「今だけ。亡き友のために、涙を流させてください」
できることなら、私も死んでしまいたかった。
お前たちは私を許してくれるだろうか……?
「すまぬな……」
それは、どちらがつぶやいた言葉であったろうか。
月が、優しく二人を照らしていた。
2006.4.2
# 2012.2.25 微修正
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本サイトは、史実と戦国無双2の幸村シナリオをベースに話を展開しています。
そのため、大坂城で幸村と対峙した兼続が幸村を倒したことになっています。ゲームでは幸村(プレイヤー)が勝つと兼続が仲間になりますが、あれの逆と考えてください。
……と、ここまで書いてこのシナリオでわざと敗走、つまり兼続に倒されたことがないことに気がつきました。もしかして兼続から何か声をかけてもらえたんでしょうか。PS2片付けちゃったよー。