『雨だまり』(レオセリ)




昨晩からの冷たい雨は、いまだ降り続いているらしい。

カーテンを引いてるとはいえ夜でもないのに、光といえば昨晩から点けっぱなしのナイトランプの明かりが弱いオレンジ色を放っているだけで、部屋の中は薄暗い。


寝台のなかで小さく伸びをしてから寝返りをうち、セリオスは隣にいるレオンのほうを向いた。

軽く口を開いて規則正しい寝息を立てるあどけない様を暖かい床でじっと見つめていると、気配に気が付いたのか小さく唸ってからレオンの目が半開いた。

「何時だろ、今……」

寝起きの声の尋ねるままに枕元の置き時計に首を伸ばそうとした途端、掛布から伸びた腕がセリオスの体を胸に埋め込んだ。

「やっぱ、いいや」

悪戯っぽく笑い、さらに力を強くする。

「休みの日ぐらい、時間気にしなくてもいいよな」

言って、癖のない銀髪に顔を寄せてくる。

「いつも気にしてないだろう、レオンは」

着崩した制服で1限目に駆け込む姿を思い出して茶化すと、レオンは腕の中にある顔を覗き込んで、すかさず口を尖らせる。

「そんなに遅刻多くないぜ、俺」

「タイガに比べれば、だろ?」

上目遣いの異議封じに対するレオンの抵抗は、からかいをのせた唇への口付け。 最初のうちは塞ぐだけが目的だったそれは、いつしか優しく蠢いて、セリオスの舌を誘ってきた。     

拒む理由もなく、素直にその要求に応えつつ、体と共に包まれていた腕を抜いて背に回す。間髪入れず絡まってきたレオンの足に任せて、セリオスは全身を包み込む体にすべてを密着させた。互いに感じる互いの熱に、どちらともなく笑い出しながら。



月最後の週末は外泊が許されているせいか、今朝は人の気配が少なく、寮全体が静寂に包まれている。それでなくても本人の希望により寮の上階にあるセリオスの部屋は、いつも独特の静けさが漂っていた。

レオンにも同じ寮内に立派な一人部屋があるけれど、週末はこの部屋で過ごすことのほうが多い。セリオスがレオンの部屋に来ない理由は自分の部屋のほうが落ち着くからということにしているが、本当のところは、人当たりが良く人気があるレオンの部屋には突然の訪問者が多く、二人きりの空間を作ることが難しいからだ。

独占欲が強すぎるという自覚はある。それを反省していないこともないし、たまには皆で出掛けようというレオンの提案に反対したこともない。だからこそ、二人で会えるときは誰にも邪魔されたくなくて、セリオスはいつも自分の部屋にレオンを誘ってしまっていた。



額、瞼、頬、唇。

レオンの顔かたちを、確認しながら唇を這わせる。

そのまま首筋から胸、腹と降りてゆき、その間に動かしていた指の代わりに濡れた舌先でレオン自身に触れる。昨晩求めあった数も少なくはないのに、レオンのそれはすでに普段と同じだけの反応を見せていた。

目を閉じてゆっくりと、指と舌を使って目の前のものを駆り立てる反面、セリオスは自分自身の欲をも研いでいく。髪を撫でてくれる手の平が気持ち良くて、思わず滑る舌に熱が籠る。

しばらくして小さい吐息が聞こえた先、レオンが身を起こして上にいた体を自らの下に引き敷いた。注がれた熱に任せて、今度はレオンの舌がセリオスの肌を滑る。

胸を吸う唇に体を揺らすと、すぐさま歯と舌先でさらなる反応を促された。片の手は自在に下肢を撫で、時折胸の舌先と交代しながら休みなく敏感な部分に快楽を与え続ける。

やがてセリオスの声がすがるような色を帯び、表情に乏しいと評判の白い表に朱がさして瞳が潤み始めた頃、ようやくレオンの顔が胸元から離れた。

近づけた顔にかかる熱い息に誘われた舌が、セリオスの口中の隅々で踊る。後ろに回された指に漏れる詰めた喘ぎすら飲もうとするように、レオンは幾度も角度を変えて薄い唇に食らい付いてきた。

「レオン、」

ようやく解放された口で、セリオスは吐息とともに名前を呼ぶ。こちらを覗きこんだ眼差しへ瞳だけで欲しいものを訴えてみるが、わかっているくせにレオンはわざと指だけを奥へと動かしてみせる。そのくせ優しい笑顔をくれたりして、セリオスのことを困らせるのだ。

再び瞳を合わせたときに呼ぼうとした名前は、レオンの耳より先に口に吸い込まれた。唇同士のぬめりにたまらず擦り寄る体をきつく抱き締めて、レオンはセリオスの望むまま、その中に深く深く入っていった。



まどろんで目を覚ましたあとも、雨は静かに降り続いているようだった。寮の空気もしんとしていて、部屋の中でも相変わらず陽の代わりにランプの光が赤と銀の髪を照らしている。

「腹減ったなー」

束の間じゃれあったあと、レオンが思い出したように情けない声を上げた。

「なあ、ちょっと早いけど、食堂で夕飯にしねえ?」

そうだね、と相槌を打ったものの、セリオスとしてはもう少しこのままでいたいというのが本音だった。しかし、生憎この部屋で空腹を満たすものは戸棚に入っている焼菓子くらいしかなく、朝昼を抜いたレオンの胃袋がそんなもので満足するはずがないことは、提案せずとも分かりきっていた。それに、最後の食事が昨晩部屋に籠る前だったことを考えると、セリオス自身も空腹でないと言えば嘘になる。

「よしっ、行こうぜ。この時間はたぶん空いてると……」

いつもどおり元気良く起き上がって時計を見たレオンだったが、次の瞬間何故かピタリと動きを止めた。

「今日、俺たち飯抜きかも」

「なんで」

顔だけ起こしたセリオスに示された時計の針は、寮に入っている食堂の開放時間はおろか、門限さえ、とうの昔に過ぎ去っている時間を指していた。


「………」


一晩我慢をするか仕置き覚悟で街に出るか、雨に冷えた深夜の部屋の中で真剣に悩む二人だった。



2007.5.27


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初めて書いたマジアカです。

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