『愛の日』(兼続×三成)
海の向こう、はるか大陸のかなたで如月の、今日のこの日に大切な人へ物を送る習慣があるという。
恋路を妨げる悪政の犠牲になって処刑された聖人の命日を称える祭りが、いつの間にか恋人たちが愛を交わす行事になったとか、何とか。
何かの書物で見知ったという知識を滔々と語り終えてひと息、懐をさぐった兼続から、三成は手の平大の桐箱をひとつ差し出された。
「この間、与板に訪れた行商から買ったんだが」
促され、開いてみた箱の中には、こぢんまりとしてつややかな丸硯があった。
「私宛の文を書くときにでも、使ってくれたら嬉しい」
「こんな華奢な硯をか?」
嬉しさの前に照れが勝り、つい品物の粗を突いてしまったが、おそらくすべてお見通しであろう兼続は、気が向いたときでいいからと笑ってくれた。
海の向こう、はるか大陸のかなたでこの時節、大切な人へ物を送る特別な日があるという。
せっかくですから殿も山城殿に贈り物をしては? 左近の茶化しをくだらんと一蹴したのは、つい昨夜。
すでに別の話題を始めようとする兼続をそぞろな言葉で引きとめながら、実は前々から用意していた竹筆をどの好機で渡そうか、思案を巡らす三成だった。
2012.2.14
-----
お読みくださりありがとうございました。
ぎりぎりのバレンタイン更新です。
タイトルはだいぶ苦し紛れです。